悪夢の恋 ⑥ ・・・堕胎・・・
2006 / 03 / 19 ( Sun ) 二人で話し合い、決断した日。
私は、泣いていた。 ゲンも泣いていた。 声を上げて、震えて、嗚咽していた。 初めて見る、ゲンの涙だった。 タウンページで良さそうな病院を探して二人で行った。 ゲンは、病院の外で待っていた。 受付で、中絶を申し出ると問診を書いて、診察された。 「次の来院時に、この同意書に記入して持ってきて下さい。その時、子宮口を広げる処置をして次の日に、手術しますので。仕事は休んで下さいね。」 私は意外なほど、落ち着いていた。 そして、その事をゲンに聞いたとおりに説明した。 「同意書って、別に本名書かんでもええんちゃう?」 「?。私は、ウソ使ってまで中絶しようとは思ってないで!なに?自分の名前が出るのがイヤなん?」 「・・・・・・・・・わかったよ。」 手術前夜。 ゲンの家に泊まって、朝一番に病院へ送ってもらう事にした。 (当たり前だが、費用はゲンが用意した。) 朝の病院は冷たくてシーンとしていた。 私は、全身麻酔をかけられてアッという間に何も感じなくなった。 眠りから覚めると、何事も無かったように私は天井を見つめていた。 「気が付きましたか。じゃあ、下着を着けて受付へどうぞ。大丈夫ですか?」 まだ麻酔が効いていて、足元がフラフラした。 ゲンに迎えに来てもらって、彼の家でその日は眠り続けた。 「ごめんね、私の赤ちゃん。いつか、また私の所へ帰ってきて下さい。」と、心の中で弔っていた。 そして、現在に至ってもその心の傷は癒えてはいない。 つづく |
悪夢の恋 ⑤ ・・・生命・・・
2006 / 03 / 18 ( Sat ) 『それ』は、何の前触れも無く、私の身に起きた。
・・・・・生理が・・・来ない・・・・・ つまり、妊娠。 ゲンの子を、宿したという現実。 正直、嬉しさよりも不安が先行した。 「ゲンと結婚しても、きちんと生活していけないように思う。 自分という人間が子を産む恐怖。 それに、まだ結婚してないし・・・。 世間体・・・というより、自分の体裁・・・。 親になんて言われるかを考えるだけで、恐ろしい。 今の生活を捨てる、恐怖。 子供を育てるという、自信が無い。 なにより、ゲンが喜ばない気がした。」 そして、それは的中した。 ゲンに伝えた時、私の目から見て彼の顔はこわばっていた。 だが、喜んでくれてもいた。私のお腹に耳を当てて「俺とアスカの子供がいるんやなぁ。」と笑っていた。 「いいんやで?産んでも。」 〝女の勘〟が、ゲンの本音を嗅ぎ分けていた。 (産んでもらっては、困る。) 私の〝女の本能〟が物凄い勢いで葛藤していた。 「産んで、母になればいいと思う。 この男は、金を稼ぐ能力に長けてはいない。 貧しくても、明るい家庭を築いていくのも悪くない。 子供を産んでから、生活がダメになったら取り返しがつかない。 生まれた子はリセット出来ないのだから。」 恋をしていた女は、現実の生活を考える女になった。 金銭的に、打算的により現実的に。 恋の相手は、“どれだけ力のあるオス”なのかを見る相手になった。 経財力・体力・包容力など・・・どれも厳しいものだったが。 そして私は、自分自身のジレンマを処理しきれず、自分の弱さに呆れ果てていた。 つづく |
悪夢の恋 ④ ・・・依存・・・
2006 / 03 / 12 ( Sun ) 優しいって、何だろう。
「ゲンは、私に優しかった。」 今から思えばそれは、男の人が持つ標準装備の優しさだった。 別に、特別ではない。体の関係をもった女へのあたりまえの優しさだった。 だけど、人の優しさに慣れていなかった私はあっさり勘違いをした。 ここまで私の事を好きになってくれた男もいなかったし。(相思相愛的な意味で) 何より、ゲンは言葉にして私を必要としてくれてたから。 嬉しかった。 今となっては、はっきりとした記憶はないんだけど・・・・・。 いつの頃からか、私はゲンに貢ぐようになっていった。自覚症状はなかった。〝私が出来る事は、してあげようと思った〟だけ。 いつかはゲンと、結婚するんだと思ってたから。 『二人の未来』への依存からきた思考だった。 たぶん、最初は食料だったかな。いつも、ゲンの家に行くときは何かしら買って行ってたから。生活の感じから裕福とは言い難かったし。 でもそれは私の勝手でしてた事。要求されたわけじゃない。 思い起こせばマズかったのは、車を貸した事だな。 ゲンの車がダメになってしまい、自分の車を貸してしまった。 ここまで来ると、ダメ女のよくあるパターン。 貸してるにもかかわらず、車庫代を私が払う。 ほとんどゲンが使っていたのに、車検代も私が払った。 いつしか、デート代も私が払うようにもなっていた。 ゲンと別れる少し前まで、これは続いた。 家族の話や仕事の話を聞かされていた私は、不甲斐無い男だと思いながらも信じていた。不安はいつも感じていたがゲンに抱かれると、それも消し飛んだ。 ゲンは私に迷惑をかけている事を、度々詫びた。本心だったのか? 心の中は「都合のいい女が手に入ったな。」とでも思っていたのか。 奴の心なんて、分かりっこない。 つづく |
悪夢の恋 ③ ・・・恋の力・・・
2006 / 03 / 11 ( Sat ) 私は正直、あまり女らしくは無い。
“女らしい”とは・・・なんというか、慎ましくも無ければ奥ゆかしくも無い。自分で言うのもなんだけど、“優しさ”が、人に比べて少ないように思う。何より、口が悪いのね。ひと言多いタイプ。(分かってんなら、直せよ!) ←現在でも直りません。バカ? そんな私が、ゲンに出会って口は直らないが、女らしくはなった・・・かも・・・? ゲンは一人暮らしだった。 家のスペアキーをもらっていた私は、ゲンが居ても居なくてもよく部屋に行って、掃除や洗濯、そして買い物に炊事をしていた。 まさに!尽くす女!!!だった。 そんな私にゲンは、さらに優しく応えてくれた。 二人で迎える初めての、クリスマスは特に頑張った。 部屋の雰囲気を少し、クリスマスらしくチェンジ。 ゲンが食べたいと言った、ビーフシチュー。美味しく出来た。 テーブルをセッティングして、ひとりでワクワク)^o^( ドンペリとケーキを用意して、ゲンの帰りを待つ。 ここまで尽くしている自分にウットリしながら・・・・・。 帰ってきたゲンは、とても感激してくれてた。 プレゼントもゲンが欲しいと言った物を贈った。 私へのプレゼントも私がリクエストしなかったので、いろいろ探して買ってくれた。 多分、ここまで一生懸命な私は今ではもう過去の産物。 そして、この恋の力はお正月も大活躍するんだ。 おせち、作ったりね。 今になって思う。 私は、男をダメにする女だったと・・・・・。 つづく |
悪夢の恋 ② ・・・恋とSEX・・・
2006 / 03 / 05 ( Sun ) 私とゲンは、私の誕生日あたりを境に急速に近い存在になった。
ほぼ毎日の電話。 3日に空けず会う日々。 会えば必ず、SEXしてた。 一緒にいる事が、嬉しくて、楽しかった。 ゲンの事を“運命の人”だと思い込んでいた。 ゲンの生い立ちは決して恵まれてはいなかったようだ。 父親を癌で亡くしていた。保険に加入していなかった両親は入院費も生活費も、彼に頼っていたらしい。母親も身体が弱く、入退院を繰り返し、ゲンにお金を無心していた。 その為、彼は、高校を中退し塗装業に就いて働いたそうだ。 私のような普通の家庭で育った人間には、分からない苦労をしてきた男だった。 しかも、バツ1で子供が一人。(子供は奥さん側が引き取った) 若い時に結婚して、自由奔放な奥さんに苦労したらしい。 1年程前にいた彼女は彼を置いてロンドンに美容師の勉強の為、留学してしまったんだとか。 なんとも、波乱万丈な男であった。 (全てゲンからの情報の為、真偽の程は謎) そんな男だから、私には“大人”であり母性本能がくすぐられる存在だった。仕事でも“親方”として職人を使う立場を頼もしく思った。 ただ、生きてきた環境があまりに違うせいでケンカもよくしたが。 それでも、暇さえあれば一緒に居た。 ケンカしても、ゲンに抱かれれば不安は無くなった。 何より、私はゲンの身体が好きだったから。 100%好きだったから、何でも信じた。 ホントに、恋は盲目だと今更ながら思う。 つづく |